昨年の11月も記しましたが、11月14日は世界保健機関(WHO)が定めた世界糖尿病デーです。糖尿病の病態(どういう病気か?)、予防、治療への知識を地球規模で深めるための日です。
インスリンを発見したフレデリック・バンティング博士(カナダ人)の誕生日11月14日が、その由来です。
1921年7月、バンティングは、膵臓を摘出されて高血糖になった犬に、膵臓をすり潰して得た液を投与したところ、高血糖が改善した事を確認しました。その液は当初アイレチン(isletin)と呼ばれ、これが後にインスリンと呼ばれるようになりました。今年2021年はその1921年からちょうど100年です。
バンティングがなぜ膵臓に注目したのかというと、膵臓に存在する細胞の集まりが糖尿病と関係している事が既にわかっていたからです。その細胞集団を、ランゲルハンス島と呼びます。1869年にドイツ人のランゲルハンスが発見した事が名の由来です。後に、そのランゲルハンス島にインスリンを合成そして分泌する細胞がある事がわかり、β細胞と名付けられました。
先日も、1型糖尿病になって間もない患者さんに、「必ず注射してください!必ず血糖下がるから!」とお伝えしました。不安でいっぱいだと思います。少しでも安心してもらいたくて、私はあまり用いない「必ず」という言葉を用いました。
「必ず」という言葉を発せたのは、このインスリンを発見されたバンティング博士のおかげです。
当初は、大量のウシやブタの膵臓から治療用として抽出できたインスリンはほんの少量だったようです(2.5トンの膵臓から得られたインスリンは、たったの200g)。きっと限られた人しか使用できない薬だったでしょう。
その後、ヒトインスリンの遺伝子配列がわかり(1980年)、それを大腸菌に組み込んで、その大腸菌がヒトのインスリンを産み出してくれる製造方法により大量生産が可能となりました(1982年)。
これが組み換えDNA技術で医薬品を作った第1号と言われています。
<まとめと年表>
1869年:ドイツ人ポール・ランゲルハンスが、医学生の時に膵臓に未知の細胞集団がある事を発見
1893年:フランス人組織学者エドアード・ラグッセが、ランゲルハンスが発見した細胞集団を「ランゲルハンス島」と名付け、これが消化と血糖調節に関わる細胞集団と推察したらしい。(エドアード・ラグッセがどのような研究をしたのかPubMed等で調べましたがヒットせず、「らしい」を用います)。
1921年:フレデリック・バンティングらが、アイレチン抽出に成功
1922年:アイレチンがインスリンと呼ばれるようになった。
1980年:ヒトインスリンの遺伝子配列がわかった。
1982年:組換えDNA技術でヒトインスリンの大量生産が可能となった。