血液検査を受けて、「正常です!」と説明を受けたらホッとしますね。
甲状腺ホルモン値についても、そうです。
ホルモン値が「正常」なら、みなさん「良かった。」と安心されます。
正常と判断する根拠は、測定データが、検査結果用紙の右側に記載されている正常範囲内にあるという事が多いです。
「それでは、正常範囲はどのように決まったのか?」これがとても重要なんです。
ここでは、最もシンプルな例を紹介したいと思います。
大抵の血液検査項目の正常範囲の決定は、健康であろう数百人から採血をすることから始まります。
得られた数値がすべて同じという事にはなりません。しかし、バラバラではありながらも、数値順に並べてみると、平均値に近い程そこに分布する人数は多く、平均値よりも上の値あるいは下の値へと、平均値から離れるほど分布数は少なくなります。
例えば、健康な日本人成人男性200人から、身長データを取ってみる事にしましょう。そして、以下のように10㎝区切りで分けてみます。
155㎝未満をグループA、
155㎝~165㎝をグループB、
165㎝~175㎝をグループC、
175㎝~185㎝をグループD、
185㎝以上をグループEとします。
きっと、以下のような想像がつくと思います。
「グループCの人の数が最も多く、グループAとグループEは一番数が少ないだろう、グループBとDに属する人の数はグループCよりは少ないけれど、グループAとEよりは多いだろう。」
グループA~Eに属する人数は、だいたい図のような感じになるだろうなぁと想像いただけるかと思います。
いろいろな方法があるんですが、血液検査の正常ゾーンは、この「正常ゾーン」の上から2.5%ゾーン、さらに下から2.5%ゾーンを除いた、残りの95%のゾーンを「正常」としている事が多いです。
検査機器会社が異なれば、「正常範囲」は異なります。なぜなら、各会社が独自で健康であろう人を集めて採血し、正常範囲を決めるからです。
Aクリニックで受けた血液検査結果と、Bクリニックのそれとでは、値が違ったという事を経験された方がいるかも知れません。からだの状況が変化したのかも知れないけれど、そもそも測定機械や方法の違いが原因という事だってあり得るのです。
得られた測定値が異常か正常かの値(カットオフ値)は、その方の病歴や理学的所見、疑う疾患の有病率などを考慮して決まります。
カットオフ値から少しズレているからと言って、すぐに病気という訳でもありません。
それを決める事こそ医者の仕事なのですが、これがなかなか難しい。かく言う私は何度も反省すべき経験をしています。その都度勉強して、次に活かすようにしています。もうその繰り返しばかりです。
結論、検査の正常範囲は必ずしも正常を示しているわけではありません。
正常範囲は、一定の医学的条件で健康と判断された多数の人からのデータの中央部分95%の事を指しており、正しくは「基準範囲」と呼ぶ事が正しいのですが、診察室ではわかりやすく「正常範囲」という言葉を用いています。